[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
下の続き。
下からお願いします。
高杉に負けず劣らず黒服の男達だった。
黒い制服に銀色の止め具が光る。何の遠慮も無しに入り込んできた男たちは、事務所の中をぐるりと一瞥した。
「何の用だ?」
銀時が不機嫌そうにそう問えば、黒服の中から男が一人、つい、と進み出た。
鋭い、黒の双眸と漆黒の髪と。一人雰囲気を異にした男は、先ほどまで銀時が座っていた、中央の机の椅子にどかりと腰掛けて、長い足を組んだ。それが妙に絵になっていて、高杉がひゅ、と軽く口笛を鳴らす。
ちらりと高杉を一瞥して、けれど男は、すぐに視線を銀時へと戻した。
「坂田銀時。てめェに甘味不法所持、および甘味不法摂取の疑いが掛かっている」
「持ってねェし食ってねェよ」
不機嫌そうに呟いて、銀時はじろりと漆黒を睨み付けた。
先ほどまで機嫌よく頬張っていたのによく言えたものだ、と口元だけで軽く笑って。けれど高杉は、ぺろりと口の端を舐めただけで、それ以上何も言おうとはしなかった。
なるほど、この男達が政党警察らしい、と。銀時の顔が不機嫌に歪んでいくのを見ながら、ちらりと黒髪の男と視線が重なる。真選組と言ったか、その男を中心に統制は取れているようで、強面の人間ばかりがじろりと高杉と土方を睨みつけていた。
「てめェ、誰だ?」
黒髪の男が訝しそうに眉を顰める。
「アンタが先に名乗れよ、警察サン」
そう言ってやれば、憮然とした表情で一度嘆息して、男は制服の胸元から黒い手帳を取り出して、高杉の前で広げた。
真選組副長、土方十四郎。
ゴシック体で書かれた名前の上に、目の前の男と同じ、漆黒の髪を持つ男の写真が此方を睨みつけていた。
「俺ァその銀髪の客だ。気にするな、話、進めてくれや」
「何処かで見覚えの在る顔だなァ、てめェ…」
じろり、と睨眸つけられたその瞳の鋭さに、笑い出したい気持ちを抑えて、僅かに口元を歪ませて。
「気のせいだろ、ガキの甘味取り締まってるおまわりサンに知り合いはいねェよ」
揶揄するように笑ってやれば、眼に見えて土方の機嫌が下がっていくのが解る。
腹の中に、はちきれそうな程不満を孕んでいそうな、そんな、眼だ。それを瞳の奥に滲ませるだけで、感づかせようとしない。
「――まァ、てめェはイイ。坂田、オマエだ。持ってる菓子全部出せ」
「だーかーらー、持ってねェっつの」
「るせェ、てめェが近所のスーパーで大量に買い占めたってェ目撃情報が出てンだ。てめェ施行日にそれ提出してねェだろう?」
がた、と椅子から立ち上がった土方は、銀時の胸倉を掴み上げてじろりと睨み上げた。
「残念でした、施行日までに全部食っちまったんだよ」
「キロ単位の記録が上がってんだよ、食っちまったってんならてめェバケモンかァ?」
随分と、ガラの良くない警察もいたものだ。
軽く嘆息して、高杉は、がんと手近な椅子を蹴り付けて。自分に向いた視線に、唇を吊り上げた。
「そいつァ甘ェモンに関しちゃァ化けモンだからなァ。ニ、三キロなら一日で食う」
「・・・マジでか・・・?」
軽く目を見開いた土方に、気持ちは解る、と同情の視線を寄せて。けれど、その捜査を助けてやる気も、無い。
「あァ。残念だが、これからこの糖尿と仕事の話をしねェといけねェ。帰ってくれねェかい、警察サン」
揶揄するような高杉の物言いに、土方の眉がひくり、と跳ね上がった。
「てめェ、高杉晋助、か」
思い出したぜ、と。土方が小さく舌打ちした。
「国際密売組織の親玉だってェ、話じゃねェか」
「あァ?言いがかりもはなはだしいんだよ」
高杉が、ついと口元を吊り上げる。
高杉の名を出せば、薄暗いところで生きている人間であれば、誰でもその名に反応する。そういう人種だ。
「丁度いい、てめェ、カカオパウダーと砂糖を大量に持ち込んだって話だが、本当か」
土方の目が、剣呑に細められた。周囲の男達も一様に高杉に視線を向けている。酷く、警戒されているようだった。
「だからなんだァ?砂糖はそちらサンの輸入規定量をこえちゃァいねェし、パウダーは規定項目にも入ってねェはずだが?」
何をしようとしているのか、は。きっと土方も察しているのだろう。鋭い瞳で睨みつけられて、高杉は小さく喉の奥で笑った。
別段法律も政府条項も何一つ侵しているわけではない。
けれど、そこから何をしようとしているのかを、知っているのだ。
今の世の中で、一番金になる仕事だ、と。
高杉はぺろりと唇の端を舐めた。
高杉自身、甘味に興味があるわけではないのだけれど。どうやら人間には必要なものであるらしかった。
目の前の銀髪のようにキロ単位で消費する人間は稀だが、小売店にも大きな店にも、菓子や甘味と名の付くものが一切排除されてからだ。
政党警察による甘味の検閲を逃れた菓子類が、百倍から二百倍の値段で出回っている。
ふざけた話だと。高杉とて思う。
一欠けらのチョコレートに、何十枚と札が投げ出されるのだ。
馬鹿馬鹿しい。
「これで、アンタらは何をしようってんだィ?」
くだらない取るに足りないものを取り締まって。何がしたい。
そう問うたときの、土方の目に映った光を、高杉は忘れない。本意ではない、というよりは、自分にも誰にも関係が無いというような、そんな瞳だった。
「知ったこっちゃァ、ねェな」
おもむろに、土方がかつ、と靴音を鳴らせて高杉に歩み寄った。ぐ、と襟首を掴み上げる。
「知ったこっちゃねェんだよ、そんなくだらねェこと。ガキや糖尿が甘ェモン食えなくなろうが、俺らの上が何を考えてようが」
背の高さは同じか、高杉の方が幾分低いくらいだろうか。随分と、整った顔立ちをしている。歪ませて見たい、と思うより先に、泣いたらどんな顔になるのだろうか、と思った。
尻尾を振って満足に啼いているだけではないのだろうけれど。頭を抑えられて屈服させられているように見える。
「俺等の場所を踏み荒らされるのが嫌ェなだけだ」
ふいに土方の顔が近づいて。
唇に生暖かいものが触れた。それは軽く目を見開いた高杉の唇を割って、するり、と口内に入り込んでくる。
「甘ェ」
唇を離した土方が、嬉しそうに呟いた。
「現行犯だぜ?」
細長い指が高杉の頬をそうっと這っていく。
「は、アンタが「教育」してくれんなら、ブタ箱も悪かねェかもしれねェなァ」
やってくれる、と。
高杉はゆっくりとその唇を歪めた。戯れで口にした小さなチョコレートのことだろうか。だったら傍らの銀色の腹を割ってみろと言いたくなる。
「残念なだが、「教育」は俺の仕事じゃねェからな。マッチョでムキムキしたオッサンが施設で待ってるぜ」
意地悪く笑った土方が、一瞬本気で身を引いた高杉に、と腰の裏から手錠を取り出したところで。周囲の男の一人が持っていた無線が、けたたましく鳴り響いた。
それは、此処から数キロの倉庫で密売目的で保管されていた大量のキャンディやクッキーが見つかったそうだ。
その量は、発見した捜査員だけでは対処できるものではないようで。
それが緊急の応援要請だという事は、傍らで聞いていただけの高杉も銀時も理解できた。
「次、覚えてろ」
それだけ言って、土方はひくりと一瞬顔を歪めて、そうして足早に階段を駆け下りていった。
無意識に、あの感覚が甦る。
「俺よりてめェの方が随分と、甘ェよ」
もう一度、あれを味わってみたいものだ、と。喉の奥で笑いながら、高杉は傍らの銀時を振り仰いだ。
「てめェに食いてェだけくれてやる」
何を、とは、高杉も銀時も言わなかった。
「密造か?」
「ヤクより高ェ値が付いてる。この事務所を使って捌くつもりだ。協力しろ」
「あーあァ、玩具見つけたガキみてェな顔しやがって」
何とでも言え、と流しておいて。
高杉は銀時に背を向けて、事務所の扉を開けた。追って連絡する、とだけ告げる。
覚えていろ、と。土方は言った。
「こっちの台詞だぜェ」
もう一度、あの甘さを貪ってやる。
外は、そろそろチョコレートに不向きな季節になろうとしている。
何処かでサイレンの音が聞こえて。
高杉の苦手な、砂糖の甘いニオイがした。
――
一目ぼれシンスケ。
高土だから。
途中から銀さんがエアーになってるのに気づいた・・・。甘味話なのに!