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チョ●レートア●ダーグラ●ンドのパロです。
まえちょっとやったやつの焼き直し。
チョコレート密売人シンスケ
チョコレート大好き銀さん
チョコレート取り締まり政府捜査官トウシロウ
で、多分高土。状況によっては銀土。
under sweets
政府が変わってひと月も経たないうちだった。町中に黒いポスターが貼られ、真っ赤な文字で大きく日にちが記されている。一週間も前の日付なのだけれど。だれもそれを剥がそうとはしなかった。
「ありえねェ・・・絶対ェ無理、死ぬ」
忌々しそうに事務所の前に張られたポスターを引っぺがして、銀時はこの世の終わりのような顔で大きく嘆息した。事務所の机の上には菓子の山が出来ている。見つからないように、こっそりあれこれ隠していたものだ。
「コレで最後だよ・・・」
もうこの国の何処を探しても、誰も売っていない。何処にも見つからない。
「俺死ぬんじゃねェかなー・・・糖分切れて頭朦朧としてくるしよ・・・」
コレで最後、コレで最後と言い聞かせながら、銀時はポケットから棒の付いた飴をするりと取り出した。鮮やかな包装に包まれた飴は、一時前なら辺りの店何処へ行っても売っていた、ごく在り来たりなものだ。
「どうしよっかなー・・・食おうかな、食っちゃおうかな・・・」
袋に包まれていても、餓えているのか、甘い香りが漂ってくるような気がした。
「――そんな死にそうな顔してんじゃねェよ・・・」
呆れたような声の主は、かつり、と靴音を鳴らせて銀時の事務所への階段を上がってくるところだった。大切そうに飴をささげ持っている銀銀時を一瞥して、馬鹿にしたように鼻を鳴らす。黒いスーツ、同じ色の眼帯。ひとつ残った瞳は、剣呑に眇められていた。
「高杉・・・てめ、何しに来やがった。俺を嘲笑いに来たのかよコノヤロー」
「被害妄想も大概にしろや」
じろりと睨みつけると、高杉は大げさに溜息をついた。
「甘ェもん禁止されたぐれェで。コレで糖尿んなる心配、無くなったろ」
半ば嘲るようにそう言って。立ち尽くした銀時の傍らをすり抜けると、高杉は事務所の扉を開けた。
勝手知ったる事務所の中の、メーカーから適当なカップにコーヒーを注ぐ。一口啜って、手近なソファに腰掛けた。
その頃には銀時も肩を落としたまま事務所の中に戻って来ていて、愛しそうに、机の上に積んだ菓子にほお擦りを始める。
「気持ち悪ィから止めろ・・・」
「喧しい、俺から甘味取ったら何が残んだよ」
「天パ」
「うるせェー!」
自棄になりながら叫んだ銀時を煩そうに見やって、やがて高杉はひとつ、息を吐いた。積まれた菓子の中から、小さなチョコレートが零れ落ちる。それを拾い上げて、高杉は銀色の包み紙を剥いた。口に入れると、舌の上で甘くとろける。
街で子どもが、悲しそうな顔をして歩いているのを、此処最近良く見かける。政府認定の、甘味料の一切を抜き取った菓子――それが菓子を呼べるのなら――を手に、こそりと肩を落として。そんな子どもと目の前の銀髪の男が同じ顔をしているのに苦笑して、高杉は口に残った甘い香りを飲み下した。
甘ェ、とひとつ呟いて、高杉は眉を寄せた。あまり甘いのは得意ではない。特にチョコレートの、喉に纏わり付くような感覚が、どうにも好きになれない。
残った包み紙をくしゃりと小さく丸めて、腹いせのように銀時に軽く投げつけた。
「いてェよ。つか俺のモン食うんじゃねェ!てめェに食わせんのは勿体無ェよ!」
ぎ、と高杉を睨み付けて、そして銀時は菓子の山を抱えるようにして大きく嘆息した。
「・・・もう食えなくなっちまうんだよなァ・・・」
「――まァ、今やチョコレートだの飴だのはヤクよりやべェシロモノになっちまったからな」
何時からあって、何時まであるのか誰も知らないその政党は、何時の間にか第一党として政府にしっかりと根を張っていた。じわり、と食い込むように、根回しがしっかりとしていたのだろう。でなければ、ひと月足らずで、こんな無茶な条例が通るはずも無い。
銀時にとっては、死に等しいような宣告だった。
国民の健全な健康の為に。そう言って、その政党は選挙前の公約通り、この国を縛り付ける条例を打ち立てたのだ。
従来の甘味類の一切の禁止である。砂糖はもとより加工食品から清涼飲料水まで、すべての甘味は姿を消して、廃棄処分の道を辿った。
そうして、国から完全に、甘いもの、は消えたはずだったのだ。
「・・・もうすぐさ、真選組、来るんだよな・・・この菓子食っちまわねェと・・・」
「真選組?んだそれ?」
「何、高杉知らねェの・・・?」
菓子の山を片端から崩しながら、銀時は高杉の前にひと束の資料を放り投げた。
銀時は街の片隅で万屋を営んでいる。小さな事務所に銀時と、子どもが二人にペットが一匹。今は出かけて、いないらしいが、事務所のあちこちには妙な生活臭が漂っていた。
当の銀時本人は色々と後ろ暗いこともやっている。何せ万屋、だ。金さえもらえれば、危なかろうがなんだろうが引き受ける。一昔前まで戦争で焼け野原になっていた国だ。今でもそれはこの国の根本に絡みつき、そうして銀時のような裏家業の仕事が生まれる。
高杉とは旧知――というと二人ともとても嫌がるのだが――の仲だ。高杉にいたっては後ろ暗いどころか頭の先まで真っ黒な仕事に浸かっている。銀時もはっきりしたところはよく知らないのだが、笑顔で人に話せるような職業ではないはずだ。もちろん一人で出歩けるような身分ではないし、事務所の外にも何人か、同じように黒服の部下達が詰めているに違いない。あんなのにうろうろされたら仕事が減るから止めて欲しい、と前一度言ったことがあるのだが、元々仕事がそうそう転がってくる事務所でもあるまいし、とぬけぬけと言われて沈黙した覚えがある。
だから、その高杉が真選組を知らないというのは、銀時にしてみれば聊か不可解であったのだ。
「最近まで国外にいたからな」
「何だ海外逃亡?大変だねェ・・・」
「取引だ。だれも逃げてねェ」
じろりと睨みつけながら、高杉は手渡された資料にざっと眼を通した。数人分の顔写真と、十数人分のデータが記載されている。
「政党警察?」
「元は普通の警備隊だったんだけどな。政府が入れ替わってからそうなったみてェ」
「政党警察なァ・・・何すんだコイツら」
ぺらり、と面倒くさそうに資料を捲りながら、高杉がそう問うた時だ。唐突に酷い車のブレーキ音が響いて、銀時と二人、きゅっと眉を顰めた。
「るせェ・・・事故かァ?」
腰を浮かそうとした高杉とは対照的に、銀時は苦い顔をしながら椅子に座り込んだままだ。
「・・・来やがった・・・」
その頃には机の上の甘味は欠片ひとつ残さずしっかりと銀時の腹に収められていて。最後の包み紙を銀時が自分の机の中に放り込むのと同時に、事務所の扉が外側から遠慮なしに叩かれた。幾人もの足音が連なって階段を上がってくる。
仕事柄一瞬身構えた高杉だが、銀時は軽く嘆息してくるりと自分の格好を一瞥すると、やがてやる気のなさそうに扉を開けた。