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勘違いもイイところのシンスケと、ものすげーつれないツンツンのトウシロウさんがメアドを交換したらきっとこうなる、という話のその3。
高杉は何時も格好よくキチクに攻めてないと駄目なんだぜ、という方とかはご覧になられない方がイイ、と思います。
何か受け受けしいんで・・・。
”あいしてる。”
そんなメールに辟易して。
シークレット・マイハニー
03
「近藤さん」
「何だ、トシ?」
昼休みに近藤に呼びかけて。振り返った近藤の、その手に自分の黒い携帯電話を握らせた。
「近藤さん、誤解しないで、ちゃんと聞いてくれ」
その瞳を、じっと正面から見つめる。
「何だよ、改まって」
眉を顰めた近藤の、握らせた手の上から自分の手を重ねて。
このひとの、その純粋さと素朴さが好きだ。器の大きさや、真っ直ぐ人に向かうところが好きだ。
だから、ごめんな。
心の中でこそり、と。それだけ呟いて、土方はぱちり、と携帯の画面を開いた。
「志村姉が、近藤さんに直接伝えられないから、俺から伝えてくれって、メールが来たんだ」
「お妙さんからか!?トシにか!?」
「ああ。でもな、それでも、俺ァ近藤さんが、あんなに志村姉のことを思ってンだから・・・やっ
ぱ直接話すべきだって言ったんだ」
ごめんな、ごめんな、と何度も謝りながら、背徳を打ち消すように、近藤の腕をぎゅっと握った。
少し見返してやりたいだけなのだ。
だから、少しだけ付き合ってくれな。
「俺の携帯で悪ィけど・・・ここに、志村姉からのホントの気持ちが、書いてあっから。メール、返信してやれよな」
に、と笑いかけて。
涙で目を潤ませる近藤を背に、土方はこそりと自分の自室へ戻っていった。
あいしてる
すきだ
いっしょにいたい
アドレス帳に「志村姉」と登録してみた。
ほんの悪戯心だ。
近藤なら、良い意味でも悪い意味でも純粋であるから、きっと気づいたりはしないだろうし。
最近気が付いたのだが、携帯の向こうのテロリストは馬鹿だ。手配書は大いに嘘をついている。あんな風に、自分の前で狂気じみて笑ったことなんて一度も無い。
花が咲きそうな爛漫な笑みならたくさんあるけれど。何時も春で羨ましいことこの上ない。
一日くらい、煩わされない心地の良い午後を作ってみたい。
頑張れ、自分。
そうして、意気揚々と穏やかに、土方の午後は過ぎようとしていた。
その午後は穏やかすぎた。
縁側で小さく鳥が鳴き、風が枝を揺らす音が聞こえてくる。子どもの遊ぶ声や、転んで泣き出す声が時々塀の外側から漏れ入ってきて、土方は思わずふ、と顔をほころばせた。
いい午後だ。
「ちょ、トシ、何コレ!どうしよ、ちょ、どうしよう!」
「あァ?」
暖かい日差しのなかで、ストレスの元が貸し出し中の為か、久しぶりに書類の前でうとうととしてしまっていた時だ。
飛び込んできた近藤に揺り起こされて、土方はぼんやりと目を開いた。
「何、どうした、近藤さん」
「いや、何かお妙さんものすげェ積極的っつーか・・・今まで無いくらい、何、これ俺どうすんの!?」
見せ付けられたメールの受信履歴に、土方はがしがしと自分の髪を掻き混ぜた。
きっと、返事が返ってきて嬉しいのだろう。今ごろ京にいるであろう男に、腹の底でほんの少し笑って見せて。
あれから二時間も経っていないというのに、受信は二百件を超えていた。
半眼で、手元の茶を啜りながら、ざっとその受信履歴に目を通す。
一番上を何気なく開いて。
やさしく、してくれ
吹いた。
穏やかな午後の為に、何時もより良い茶を淹れたはずであるのに。残らず吹いた。
「え、ナニコレ」
何がどうなってこんな返事が返ってきているのだろうか。
「あいしてる」からの進化にしてはその過程が全く見られない。別の生物に違いない。それか遺伝子の突然変異だろうか。
「お妙さん、ホントに何時もより積極的で・・・っ、”繋がりたい”とか、”ぐちゃぐちゃにしたい”とか、”泣き声が聞きたい”とか!俺どうするべきかな、新しい扉くぐっちゃうべきかなコレ!」
「なんで若干うきうきしてんのかは聞きたくねェけど、そんな話、してたのか・・・」
心底自分でなくて良かったと思う。そしてコレからも自分でない事を願うばかりだ。
もしアドレスを間違えた、何てことになったらどうするのだろうか。自分の仲間に”繋がりたい”とか送ってみるテロリストを想像して、土方はぎゅっと眉を寄せた。
「お妙さんメールになるともう大胆っつうか、いやでもそんな艶ぽいお妙さんも好きだ!ホントに俺想われてたんだなァ・・・お妙さァん!」
今にも走っていってしまいそうな近藤をなんとか引きとめながら、土方はざっと受信履歴を順番に流していった。あいしてるとか、すきだ、とか。よくもこんなに飽きないものだと想っていたけれど。
「でも押し倒すのは俺だと思うんだよ、なァ、トシ!」
「あー?」
唐突に近藤が、腕を組みながらそう言った。
「だからそう言ったんだよ」
「へェ・・・」
「そしたらお妙さん、乗られるのも悪かないけどできれば乗りたいって。大胆だろ?」
大胆というか馬鹿だ。
呆れ顔で近藤を見つめていたら、電子音が響いて、土方の携帯画面に新着メールが表示された。
あの「やさしくして」には、近藤もまだ返信していなかったようで、それにほっと安堵しながら、土方は「志村姉」と表示されたメールを開いた。二通連続なんて別に珍しくもなんとも無いのだから、どうせまた何時もの、ぞっとするほど甘い文句だと思ったのだ。
ヤらせてやってもイイ、から
何を?
ナニ、だろうか、やはり。
画面の向こうのテロリストに小さく毒づいて。何となく、ニヤりと笑っている気がしたので、次に会ったら切ってやろうと思う。
それからは、怒涛のようなメールラッシュだった。世間のテロリストは随分と暇らしい。なら自分達は何故こんなに忙しいのか、抗議の一つでもしたくなるというものだ。
どうしてもっていうからだからな!
こんかいだけだぜ!
ほんとはおれが上だからな!
さてどう返信してやるべきか。
寧ろこのまま放置したい気分だったのだけれど。このままだとまた、あの大地震だが京から大移動してきそうなものだから。既に来ている気もするけれど。
「近藤さん、取り合えず、志村姉に会って来いよ。今日はもういいからさ」
一発殴られでもすれば目がさめるだろう。
ゴメンな、近藤さん。
心の中で静かに手を合わせて。意気揚々と出て行った近藤に、軽く手を振ると。
さて、この厄介ごとをどうしようか、と。自分が巻いた種ながら、面倒くせェ、と土方はゆっくりとため息をついた。
――
高土っつーのもおこがましくなってきた。
これ高土なのか土高なのか近高なのか近妙なのかわかんね。