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最早順番もあやふや・・・。
テストも終り、夏休み目前にして、地域で大きな夏祭りが催された。クラスで行こう、と言い出したのは担任である銀八だ。夜に余り出歩くことを好まない学校も、担任が一緒なら、としぶしぶ許可が下りたのである。
皆浴衣な、と誰かが言い出して、祭好きなクラスの雰囲気も高じてか、夜店の並ぶ神社にみな浴衣で集合して十数分。
「飽きた」
高杉はそう一言呟いて、手に持った水あめを口に含んだ。
甘いな、と眉を寄せながらも、それでも捨てないのは、それが土方から手渡されたものだったからだ。クジで水あめを二本引き当てた土方は、それを当たり前のように高杉に渡した。
だから、甘いものを好まない高杉も、甘さに閉口しながらも全部食べてやろうと思っている。
捨てるなんて、できるわけがないのに。
本当は、土方と二人で来るつもりだったのだ。浴衣を着て、お揃いの団扇を差して。
それが、気がつけばクラスの連中でぞろぞろと集まることになっていて。土方が行くと行ったからもちろん来たのだけれど、いささか不服なのは仕方がない。
もう三十分以上も付き合ったのだ、十分だろう、と。高杉はきちんと完食した水あめの棒をゴミ箱に投げ捨てて、口の中に残る甘さに顔を歪ませた。
「トシ、一個食って」
口いっぱいにたこ焼きを頬張った近藤が、マヨネーズのたっぷり付いたのを一つ、土方の口元に持っていった。それを躊躇なく口に放り込んで、土方は幸せそうに咀嚼する。口の端についたマヨネーズを人差し指で拭って、それをぺろりと舐めた。
「ありがとな、近藤さん。美味ェ」
に、と笑う土方は幸せそうで。それを見た高杉はもやもやとしたものを感じたけれど、結局黙ってそっぽを向いた。
土方が近藤に抱くのは、弟が兄に抱くその気持ちと似ている、と。高杉はそう思っている。苛々としないわけではないが、それでも小さく舌打ちするくらいですむのは、土方が、片方の手で自分の浴衣の袖を握っているからだ。
無意識なのか意識的なのか、神社に入ってからずっとそうで。
だから別段、たこ焼きの一つや二つで目くじらを立てることもないのだ。
周りは別だけれど。
いっそひやひやするのは周りの方で。普段機嫌が良いのか悪いのか判断が付きにくい高杉なものだから、軽い舌打ちがとてつもない殺気を放っているように見えて仕方がない。
高杉の感情を、良くも悪くも波立てるのは土方だけだから、皆が少しずつ土方から離れていって、気がつけば土方の隣には近藤と高杉の二人だけになってしまうのだ。すこし離れて、皆が遠巻きにそれを見守っていた。
「晋助、コレ食ってみろ、美味ェ」
土方が差し出したたこ焼きを嬉しそうに食べながら、高杉は、それでもやはり悔しいものがあるのか、土方の腰をさりげなく支えて近藤から少し、引き離す。
「何だ、晋助?」
「何でもねェよ、食いにくかっただけだ」
オマエが遠いから、と。そう言って、若干周囲を引かせつつも、土方も満更ではないようだった。
「・・・まあ、もう十分だろ」
高杉が、唐突にそうぽつりと呟いた。
「十四郎」
こそりと耳元で囁かれて、土方は怪訝そうに後ろを振り返った。
その土方の腕を引っつかんで、クラスの輪から引きずり出す。そのまま夜店の間を抜けて人気のない神社の外れまで、引っ張って行った。
「晋助!」
「あ?」
「勝手に抜けたらマズいだろ、戻ろうぜ」
着慣れない浴衣と草履に、転びそうになりながら歩く土方を支えてやって、高杉は良いんだよ、とあっさり応えた。
「もう散々付き合ったろ、これからは俺らが楽しむ時間だ」
にィ、と嬉しそうに笑う高杉に、土方はかくりと肩を落とす。もうどうしようもないと、知っているようで。顔を上げた時には、僅かに笑っているように見えた。
「折角の祭だろ、ごちゃごちゃ群れるこたァねェ」
オマエと俺が居れば十分だ、と。土方の頭をぽんぽんと叩いて、高杉は再びその腕を取った。
「近藤なんかに貰わなくても、俺がたこ焼き、食わせてやる」
マヨネーズは控えろよ、と付け足して、土方の腕を引っ張って、祭りの喧騒の中に連れ戻した。クラスの仲間たちは皆先へ行ってしまったのだろう。これだけ人が居るのだから、暫くは見つからないに違いない。
「行こうぜ、十四郎」
まずはたこ焼きな、と。そう言って、高杉は土方土方の手を握ってゆっくりと歩き出した。
このシンスケは、トウシロウが自分にめろめろだということを自覚してるので――もちろん自分もトウシロウにめろめろだということも自覚してる――トウシロウが多少近藤さんといちゃこらしてても、仕方ねェなァというくらいで、あんまり苛々しません。
自分達の方がいちゃこらしてると自慢できるからです(うわぁ