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麦芽って言っちゃう。
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左が見た、夢とか元になってる、可哀想なシンスケと可哀想なトウシロウさんが出てくる残念な話。
間違った攘夷時代に実は出逢ってた高土。
最早根本から間違ってる。
今更日記ネタで真面目な高土を期待されている方はいらっしゃらないかとは思いますが。
欠片も居ないですスイマセン。
誤算だった。
手元の資料を凝視しながら、高杉は唖然と立ち尽くした。
だってそうだろう。
戦いの軌跡
十年近くぶりに、会う約束をした。道端で着流し姿の土方にばったり出会って。そうして、あの頃ずっと抱いていた思いを、高杉は思い出したのだ。
橙色の、思い出だ。
同い年の幼馴染で、家は少し、遠かった。毎日手を繋いで、遊びに行って。
雨が降った日は、広がった木の下で二人で雨宿りをしながらずっと話していた。将来どうしたいとか、勉強より剣が好きだとか、詩が好きだとか。
「晋、助……」
大人になった土方は、目を見開いたままそう呟いた。
背は随分高くなった。幼い頃はほんの少しだけ高杉の方が高かったのだけれど。どうやら抜かされてしまったらしい。
煙管を銜えている自分と同様に、土方も、紙巻の煙草を揺らせていた。
「と、うしろうか?」
「ああ、すげェ、懐かしいな」
「ああ。何年、だろうな」
嬉しそうに、土方が顔をほころばせる。その顔は、あの頃と少しも変わってはいない。
そうして、その顔を見た瞬間に、思い出したのだ。手を握って、その暖かさに泣きそうになって。幼かった自分は、それが「何」なのか知ろうともしなかったけれど。
唐突に、今。
「あの、よ。今度、家、行って良いか?」
知ったら、伝え無ければ始まらないのだと。くわえていた煙管を揺らせて、高杉は薄く笑った。
随分な人生を歩んできてしまった。
それは、今もだ。幸い写真は撮られていないから、指名手配書は出回っていない。自分が攘夷志士として戦って、そうして今此処にいる、と。土方に伝えたかった。
おれは、戦ってくる。
そう言って、その手を離したのだ。
豪農の息子であった土方とは違って、高杉は武士の子だった。動き始めた時代に逆らえなくて、どうしようもなくて。
出逢った仲間達と、竹刀や木刀を真剣に握り替えた。
十年も、前だ。
「行くなよ」
行ってくると告げたその時に、土方は、確かにそう呟いたのだ。行かないでくれよ。
「だったらどうして俺も連れて行ってくれない、なんで俺だけ仲間はずれなんだ!」
自分が武士だからという言い訳は無しだと、土方は言った。高杉の仲間に、自分と同じ農民や、身分の低い足軽がたくさん居ることを、知っていたからだ。
だから、尚更、どうして自分を連れて行ってくれないのかと。詰め寄る土方に、高杉は曖昧に返事を返さぬままに、戦いへ、飛び込んだのだ。
今思うなら、身勝手な自分の思いだったのだ。その手に剣を持たせたくないだとか、どうしたって人を斬り殺さなければいけないのだとか。そんな綺麗ごととやらを頭の中でつらつらと並べ立てていただけだった。
そうして、真実だってその通りだ。
「連れて行けねェ」
はっきり言ったのはそれだけで。
それきり、一度も会っていなかった。
高杉は片目を失って、仲間を失って。血に塗れた時間の中で、ほんの一瞬、ふと思い出す時がある。
繋いだ手の暖かさだとか、その時感じだ奇妙な疼きだとか。
もう一度、逢いたいのだとか。
逢った瞬間に、すべてが噴出したみたいだった。
おれは戦ったのだと。そう言いたかった。自分達は、負けたのだ。天人ではなく、もっと大きな何かに、負けたのだから。
けれど、まだ諦めきれずに意地汚く戦っている。
それを格好良いと言うよりも、馬鹿だと言ってもらいたかった。
そうすれば、きっとまだ立てる気が、したからだ。
「家、か?構わねェけど、何時だ?」
「なら、近ェうちに。場所だけ教えろ」
相変わらず勝手だなァ、と。そう呟きながらも、土方は小さな黒い手帳を取り出して、そこに短くメモをすると、破りとって高杉に渡した。
「俺、今でも、戦ってっから」
剣を振り回す時代はもう終わったけれど。やりようによってはどうとでもなるのだと、高杉は思っている。
「そうか。話、聞かせてくれよな」
あれからどうなったのか。
今何をしているのか。
いつでも来いよ、と。そう言って笑ったから。
「待ってろよ」
余裕ぶってそう返して。
そうして、高杉は愕然とした。
「し、真選組だ…?」
それも、副長であるらしい。
「え、ちょ…え…?」
「どうしたでござるか?晋助」
訝しそうに顔を覗き込んでくるのは、新しい部下で。人斬りの名を持つ。
新しい組織は、もう随分と形になっているというのに。
そうして、今度こそ土方を連れて行こうと思ったのだ。自分が総督で、土方がその下につく。そうして二人でなら国を変えていける。
攘夷時代の、あの赤い夜も、傷を抉られる痛みも。腹に凝って消えない黒々としたわだかまりも。そういうものを全部越えたその先で。
一緒にいられると、思ったのだ。
「ンとにありえねェし」
ぐしゃり、と髪を掻き混ぜて、高杉は万斉が持って来たらしい酒を、一気に喉に流し込む。
味わったことの無い苦味に、高杉はぎゅ、と眉をひそめた。
「なンだこの酒?」
「あァ、新しい酒でござる。麦の芽から造るビールというシロモノでござるよ」
金色の、酒だ。ふわふわと白い泡が立っていて、茶色のビール瓶から万斉が更に注ぎ込んだ。
独特の香りが鼻をつく。
日本酒とも、焼酎とも、果実酒とも違う。
「悪かねェな」
「でござろう?」
注がれた二杯目を更に飲み干して。
高杉は憂鬱そうに手元の資料に目を落とした。
「…いやこれはねェよな、うん、ねェ」
「…大丈夫でござるか…?」
不可解なことを呟き始めた新しい頭に、万斉はぎゅ、と眉を顰めた。
自分が揃えた資料に、何か不満でも合ったのだろうか。
最近、一時は沈静化していた攘夷志士達が、再び表舞台に、大規模な戦闘ではなく、ゲリラ的な展開を見せ始めていることを理由に、幕府が新しい組織を警察の中に組み込んだ。
武装警察、真選組。
出来て日の浅い、小規模な組織ではあるが、既に幾つもの過激派攘夷組織を取り締まっている。
迷惑なものが出来たものだ、と。そう苦々しげに高杉が言ったものだから、万斉は一週間近くかかって、局長以下幹部の情報を資料として纏めてきたのだ。
未だ外部に後悔されていない情報の多い真選組だが、此処までの資料はそうそうない、と自負していた。
「どうすんだよコレ…俺攘夷やってるとか言えねェし…」
よりによって敵対組織であるらしい。
高杉としては、今造り上げている新生鬼兵隊を攘夷過激派のさきがけであり中心に据えるつもりであったから、尚更だ。
「いや、でも逢いてェしな…」
高杉を見て土方が何も言わなかったという事は、自分の手配書なり資料なりは、未だ彼らの手には渡っていないのだろう。行動力はあっても、諜報分野では未だ未熟であるということであろうか。
少なくとも、それは今の高杉には、酷く助かる話であった。
「つか戦ってるとか言っちまったんだけど、どうする俺、どうする」
いっそ何かと戦う別の職業である、という設定でいくか。
攘夷志士なんて、絶対に言えるわけが無いのだ。
十年越しに出逢って。笑い会って。あのどうしようもない気持ちを、今度こそ言葉にして伝えようと、思っている。
それなのに、攘夷志士であるというそれだけで、刀を抜かれでもしたらきっと立ち直れない。
そうして、高杉が悩み続けて三日。
気晴らしに出かけた先で、再びばったりと、土方に遭遇したのだ。今度は、制服を着ていた。間違いなく真選組の制服だ。
「晋助!」
「十四郎、ちょ、まだ、早ェから、な!」
「いや意味わかんねェんだけど…」
出会い頭に焦り出す高杉を気味悪そうに眺めて。
「折角だから飲みに来いよ」
懐かしい、と嬉しそうに笑う土方に思わず頷いてしまった後で、高杉は激しく頭を抱えることになるのだ。
「で、お前今何してンだよ」
直球だった。
互いの職業の話には触れないようにしよう、なんて固く誓った高杉の決意は、その土方の一言であっさりと流された。
机の上には一升瓶とツマミがいくつか。
そういえば二人とも当たり前のように酒が飲めるようになっていて。それだけ離れていたのだと思うと、幾分切なくなる。
「何、て、なァ」
「戦ってンだろ?言ってたじゃねェか」
「あ、ああ。幕」
府はよくない。
「いや、まて、幕、ば、幕・・・・・・・・・・・・・・・・・・麦芽と」
麦芽ってなんだっけ。
ああそうだ、昨日万斉が持ってきた、飲んだことの無い酒の話だ。
「・・・ビールでも作ってンのか?」
一瞬不思議そうな顔をした土方だけれど。そうか、と柔らかく表情を崩した。
おいていかれたのを、覚えている。お前は連れて行けないと、あっけなくその手を振り解かれた。
幼い頃だったから、高杉が何と戦いに行くのかさえ分からずに。
それでもその手に握られた刀を、どうして自分には触れさせてくれないのかと。あの後、ずっと一人で居たのだ。
高杉が出て行って直ぐに、土方も家を飛び出した。
追いかけたつもりだったのかも知れないし、そうでないのかもしれない。何時か何処かでかち合う日がくるだろうと、漠然とそれだけを、思っていた。
高杉が、攘夷志士として戦っていたのだと知ったのは、近藤と出会って、そうして幕府の下につくと決めた頃だ。その時には既に主な攘夷志士達は処刑されていて、高杉や仲間だという桂、坂本などは行方不明として処理されていた。
だから、思いもかけずに出逢った時に。知らぬうちにほっと安堵していたのかもしれない。
生きていたと。そう思った。
幕府権力が未だ上を占めているから、一般の仕事には就けていないようであったけれど。
「そっか、ちゃんと稼ぐあても、あんだな」
そう顔をほころばせた土方に、高杉は曖昧に笑っておいた。
「で、ビールってどうやって造るんだよ。俺割りと好きだからよ、興味あンだよ」
そんなのこちらが聞きたい。
昨日飲んだばかりの酒の話をされても困るというものだ。
「いや、あー……麦、をな、育てンだよ」
「へェ、麦から自家製か。こだわってンだなァ」
感心したように、土方がこくりと相槌を打つ。一升瓶の酒は適度な速さでなくなっていって。
自分が相当飲んでいるという事に高杉が気がついたのは、その頃だ。
「でな、麦を育てンのも大変でよォ。毎日草毟ったり虫を取ったり」
「そりゃァ大変だなァ、そんだけ手間隙かけてつくるんだ、美味ェに決まってる」
当たり前のように、土方と話せている自分に、高杉は妙な緊張も解けて、舌が段々と滑らかになって行っている気がする。
余計な事は言わない方が身のためだと思いつつ。
土方が嬉しそうに、話を聞いてくれるのだ。
自分が話している間は、土方は身の上を話さないだろう。真選組の話など、聞きたくない。
決定的に離れてしまっているのだと、思い知らされるような、気がするからだ。
新しいこの国を造る、などと、戯言めいたことを、高杉はもう言わない。造ることを考えるから、負けるのだ。
壊すことを考え続ければいい。
大切なものを奪いつくして、そうして肥え太っていったものを。
「根こそぎ、刈り取ってやる」
呟いた言葉が転がって。
しまった、と思ったときには土方が険しい表情で自分を睨みつけていた。
「いや、違ェ、違っ、」
あたふたと杯を持ったままの手を振り回して。剣呑さを帯びていく土方の表情から、目をそらすにそらせない。
そうだ、敵なのだと。本当は、刀を抜いて斬りあう間がらなのだと。
それを腹に呑み込んで、そうして、手元に置いてあった刀に、高杉はそうっと、手をかけた。
「根から刈ったら次の年の肥料になンねェだろうが、馬鹿」
元農家をナメんな。
ぽかんと口を開けたままの高杉に、土方は呆れたようにがしがしと髪を掻き混ぜた。これだから元坊ちゃんは、と。ぶつぶつと何事か呟いている気がする。
「良いか、晋助。麦だろうが米だろうが、刈るのは根から五センチくれェ上のところにしとけ。そんで、次の年に、良い具合にその根が腐るから、それを田んぼに混ぜ込んでやるんだよ。そうすっと美味ェ米、じゃねェ麦ができるから」
「そ、そうか」
「ちゃんと土の手入れも考えねェと、美味ェ麦は、ひいては美味ェ酒は造れねェってもんだ」
肝に銘じとけ、と言われて。
そうして、そこで漸く土方が酔っているという事に、気付いたのだ。
その後、土方と二人で、良い麦はどんな麦かという事と、美味いビールを作るための工夫についてと、どんなブランドで売り出すかという事を、夜通し考えた。
最後の方には土方は半ば潰れてしまっていて、高杉は本気になっていた。
「――いや、やっぱり銘柄は「黒い獣」で決まりだろ。和製ビールみてェな雰囲気出てて、粋じゃねェかィ」
「いやいやァ、此処はァ、一つ「マヨ侍」とかにしとくべきらろうよ、そっちの方が売れるりきまってんらろう!」
「マヨって何だマヨって!ビールなのに、マヨじゃァ格好がつかねェだろうよ」
「いいや、格好いいよ格好良い!」
酒の匂いと、最早自分が言っている事を認識していない酔っ払いが二人、膝を付き合わせる中で、夜は白々と明けていた。
二日酔いの頭で、高杉はふらふらと自分の隠れ家に戻っていった。呆れた部下の、何時もの小言のような言葉でさえガンガンと響く。
「それで、何をしに行っていたのでござるか。無様に二日酔いなどと、晋助らしくないでござろう」
「・・・・・・この国の農業形態と、それに伴って生じる酒造業へのメリットとデメリットについて語ってた」
「・・・・・・公開生討論でござるか・・・?」
随分と別の意味で世間に積極的な過激派だ。
高杉の顔色があまり良くないのは、徹夜で建設的な意見を戦わせていたからに違いないだとか、これが今後の、第二次攘夷戦線とも言うべき自分たちの行動に大きく関わってくるだろうだとか。
妙な意気込みをもって頷いた万斉を、どうしてだか、高杉は奇妙に冷めた目で見つめたのだ。
「なァ万斉。俺達、ビール造ろうか……」
どうやら世界は何処まで行っても、平和らしかった。
――
てな夢を本気で見ました。
麦芽って言っちゃう。
ホントはもうちょっと真面目になる予定だったのに、今思うとこのネタでどう真面目にする気だったかの方が気になって仕方ない。
何かスイマセン・・・